クラシックなジャケットにズキュンとハートを射抜かれた日。
クラシックなジャケット。良い生地を使い、仕立てがよく、そしてカッティングも美しい最上級の服。やっぱり違う?
世間的に、高級ブランドとして知られるいくつかのメーカーがあります。
そこで作られている高い服が、なぜ高いのか。若い頃は、それがなぜなのか、わかりませんでした。
多分、そういう服を着た人を、実際に見たこともなかったんです。
30年ほど前のある日、その強い衝撃は、突然やってきた。
その日、わたしは1歳になる息子をおんぶして近くのデパートに出かけました。
地下で生鮮品を少し買って、その後、服が見たくなり、2階へ。そのデパートは1階が高級ブランド、2階はコムサデモードとかペイトンプレイスとか、若い人にも手がとどくブランドのショップが入っていたのです。
新しいショップがいくつかできていて、女性カメラマンが、多分宣伝用に、ショップの写真を撮っていました。
ふーん、女性カメラマンね、ちょっと珍しいかも〜と思ったのだけど、すぐに私はその女性の着ている服に吸い寄せられました。
なんだか、ものすごく、ものすごくすてきなのです。
「なにこれ〜、すごーく素敵!」
写真を撮っているから、動きやすい、普通のジャケットなんだけど、こちらの目を捉えて離さない。カッティングの美しさ、素材の良さ、縫製、肩から袖へと続く無駄のない美しいライン。
色は、薄い茶色を帯びたくすんだグリーン系で素材はツイード、両側に2つ、ボタンのついた蓋つきポケット。ウエストには、ゆるいベルト。
ノーフォークジャケットというタイプのものだとわかりました。
(その頃、”服の基本について”、みたいな本を、なぜかしっかり読んでいたので、伝統的なデザインは頭に入っていたんです)
今でもしっかり思い出せるのだから、どれだけ、私が衝撃を受けたか、どれだけしっかり観ていたか。
いったいどこの服だろう、知りたい、着たい、手に入るものならほしい。
そのとき、私は26歳で専業主婦だったので、使えるお金は限られていました。でももしかしたら買えるレベルのブランドかもしれないし。このカメラマンに聞いてみよう。
一通り撮り終えた女性カメラマンは、通路を通って、エスカレーターの方へ向かっていきます。
あ、行ってしまう!
きくなら、今しかない。女性を追いかけました。背中に息子をおんぶしたまま。
あつかましくも、服のブランド名を聞いてみた結果
「あの、すみません、それどこの服ですか。」
その女性も、びっくりしたでしょうね。なにしろ、ダッサいおんぶ紐で、背中に子供をくくりつけた若い女が、あなたの着ている服のブランドを教えてくれと言ってるんですから。
「この、ジャケットですか。」
「はい!
とても素敵です!」
「これは、
エルメスです。」
エルメス!!
エルメスかぁ。
あ〜、やっぱり無理だ〜〜
かなりがっかり。いや、超がっかり。全く手が届かないブランドだもん。
女性にお礼を言って、とぼとぼ帰る。
このデパートにエルメスはなかったが、高いということくらいは知っている。
数日後、私はエルメスを扱っている東京のデパートにいた。
納得したはずなのに、数日後、私はエルメスを扱っている東京のデパートまで出かけて行き、同じジャケットがないかどうかさがしていました。
もちろん、息子をおんぶして。
2,3箇所、エルメスを回ったけれど、同じジャケットはありませんでした。
何よりもまずお値段にびっくり。まあ予想はしてましたけど、シンプルな、なんの飾りもないジャケットが50万円。パリの本店だったら、もうちょっと安いんだろうか。あのカメラマンは、ひょっとすると、パリのお店で買ったのかもしれない。まあ、しかたない。今回は、諦めよう。
だいたい私の年齢からいって、エルメスなんて早すぎるでしょ。まだ26歳なんだし。ゆっくり好きな服を探せばいいし。
わかったのは、仕立てのいい服って、あんなにすごいんだということ。
もちろん、その女性カメラマンにぴったり似合ってたということもあるだろうけれど。
だけど、ひょっとすると、そのジャケットも新品ではなくて、ビンテージだったのかもしれないとも、今は思います。
30年後の今、仕立ての良い高価な服 について、考えること
あれから、30年経ちました。
もうエルメス解禁の年齢にはなったけど、まだエルメスを着たことはありません。
似合う服が分かってきたし、ほかに着たいものがいっぱいあるから、なんてね。無理をすれば買えなくはない。でもかなりはっきり自分の持ち味がわかってきた今、別にいいか、なんて思ったりもします。
もちろん、着てみたい気持ちは十分あります。うん、そのうち、着る機会もあるかもしれない。ある日、ふらふらと買ってしまったりね。
あ、ふらふらと買うような服じゃないか。
それでも、このとき最上級の服を見たということは、すごい勉強になりました。
生地がよく仕立てがよく、カッティングの美しい服がどれほどのオーラを放つか、しっかり脳裏に刻まれた出来事でした。
その最上級の服を、女性が、仕事の場でさらりと着こなしていたのも、素敵に見えた要素の一つだったのだろうと思います。
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それからだいぶ経って、今度は、エルメスを着た男性に出会って、またしても感激するんですけど。
と、ここまで書いてきて、自分でも、そんなにエルメスが好きだったなんて、知らなかったよ〜〜、忘れてたなぁ、
オークションで買ったビンテージでもいいので、一度は着てみないと。
もし、着る機会があったらば、また書きます。
きょうはこれでおしまい。